矢吹咲子のひとりごと

ひとりごとこそおもしろい

情報

アーケードの角にあるエスカレーターを下っていくと、クラクションが鳴り響いているような空間に出る。

八百屋、魚屋、肉屋、テイクアウトのアイスクリーム店、立ち食い蕎麦、雑貨店、ドラッグストアがパズルのピースのように隙間なくはまり、整然と並んでいる。

買い物客が三々五々通りすぎ、店員の客引きの声が響き渡る。

視線はどこを向けばいいのだろうか。数歩進めば八百屋から肉屋になり、90度首を左に傾げれば魚屋がみえ、さらに数歩進むとアイスクリームを食べている人々に出会う。

 

視界が慌ただしい。情報量が多い箱。地下だから外とのつながりもなく、閉ざされた箱の中で右往左往してしまう。

情報はやって来ては流れ、またやってきては流れ去る。数歩進むだけで情報は入れ替わる。

目から入ったものが脳へ行き渡っている最中に、また新たに目から情報を取り込む。

脳にたどり着いた情報は、わずかな時間ですぐに削除される。ざるで水を掬っているようだ。

 

箱の中は情報で満たされている。その中で歩いていると、1秒も経たずに目まぐるしく移り変わる視界。

 

再びエスカレーターに辿り着く。地上へ向かう。

外に出ると、高層ビルが何棟も立っていた。すでに箱の中身のことは忘れてしまっていた。

情報は多いようで、記憶にも残っていない。

 

情報が少ないような箱。例えば田んぼが続く田舎道。砂利道で小石をひとつ蹴りながら30分歩き続ける。景色はそれほど変わらず、左右を見渡しても田んぼばかり。

情報なんて田んぼしかない。それでも景色が変わらないところにいれば、見たものは記憶されている。