商店街の一角に、昔ながらの小さな文具店がある。
いつでも賑わっている商店街。古いお店が閉店しては新しいお店ができ、テナント募集の貼り紙も所々に見かける街。
またすぐに、流行りの洗練された新しいお店ができるんだろうなと、新店に興味がありつつも、老舗が薄れていく感覚はどことなく寂しい。そんな気持ちを抱えながら毎日のように商店街を歩いている。
文具店は、他店と比べると薄暗く、白髪の老人を思い浮かべさせる店構えだ。
周りが白を基調としたスタイリッシュな店や、カラフルでいかにもSNS映えしそうな外観や内装の店があるから、コンクリートの床で奥に進むほど暗くなってゆく見た目は、失礼ながらも廃れていく感覚がぬぐえない。
入口から中を覗くと、出口のないトンネルのようだ。
外観も内観もお世辞にも光とは言えない文具店ではあるが、私はその場所を気に入っている。
必要に迫られ「原稿用紙」を買うことになった。
私は何でもスマホひとつで完結させる。1万文字ほどの書き物も、思考の整理も、ちょっとしたメモも。
手書きで紙に書くということはほとんどなくなった。
あるテーマを書く時に原稿用紙がどうしても必要で、デジタルとは遠く離れたようなこの文具店に入った。原稿用紙が確実に置いてあるような、昭和レトロ感のある商店と言い表すのが相応しい。
その場でもう一つ買い物をした。
結婚祝いの祝儀袋を探していた。
ふと、この店で買いたいと思ったからだ。お会計のとき、店主さんが購入したものに対して、一言会話を投げかけてくれるのだ。
その会話が欲しかった。
原稿用紙と祝儀袋を抱え、レジ前に向かう。店主さんは電卓を叩き、私は現金でトレーの上に小銭を置く。
そんな一連の動作をしながら、
「和紙のご祝儀袋、綺麗ですよねぇ」
店主さんが声を発した。
友だちの結婚式で、と会話のキャッチボールをしながらお会計が進む。
深い黄緑色の落ち着いた和紙をベースに、煌びやかな施しがされている袋。とても美しかった。
店主さんは、購入するものに対して必ず一言添えてくれる。それもお客さんも店主さん自身も喜ぶような。
和紙で丁寧に作られた祝儀袋はほんとうに美しかった。
店主さんの一言で、ここで売られている品物はどれも特別好きになるようにできている。
出口のない真っ暗なトンネルを入った先には、寒い冬に暖をとるような場所だった。
だからこの文具店に入るのをやめられない。